雨が降らなければ、朝、散歩に出かける。

サトウキビ畑に囲まれた海までの散歩道は、ぐるっと一周40分。
これが一日の始まりだ。


ゆるい下り坂の向こうに見える、朝の海へ。

ゆっくり深呼吸しながらてくてく歩くと
鳥や、虫や、サトウキビの揺れる音が聞こえる。
背中に当たる朝の陽が、優しく身体を温めてくれるのが気持ちいい。

海に出る前に一瞬の藪があり、藪を抜けると小さな浜に出る。



私は朝のこの浜が好きだ。
ここに着くとフーッと心が広がっていく気がする。

なんの飾り気もない、穏やかな浜。
まるで山間の湖に出くわしたような気分になる。
ただ、穏やかな水の揺れを、ぼんやり眺めながら歩く。



その先には小さな古い漁港があって、昔ながらの木製のサバニも並んでいる。
漁港というのは生臭い臭いがするものかと思っていたけれど、
ここではただ風が吹いているだけだ。

大きく息を吸う。



小さな防波堤の先っぽにポツンとたたずむこの棒に、なぜか挨拶をする。

もしもこの空間を楽しむ人が先にいる時には、
遠くから、「おはよう、また明日ね」と通り過ぎて家路に向かう。


私はこんな朝の日課が大好きだ。

でも実は4ヶ月前までは大嫌いだと思っていた。




去年の末、那覇マラソン帰りの友人が、マラソンがどんなに楽しいかを力説し、
私にもはじめるように熱烈に勧めた。

私の地元はマラソンが盛んで、子供の頃から体育の授業や競歩大会で
さんざん「やらされた」感があり、マラソンに対して楽しい思い出がなかった。
マラソン・ジョギング・ウォーキング、こういった類の物には拒否反応。
旅行中1日中歩いたり、何時間も踊ったりは楽しいのに、
スポーツタイプとなるとイヤな感じがしたのだ。

それで、「やりなよ」「やだよ」、「やったほうがいいって」「ぜーったいやだね」・・・の押し問答を繰り返していた。

あげくなんの根拠か、私に向いてるからとまで言い出す友人。
私の何を知ってるって言うの!?腹立たしくさえなってきた。

だがしかし、そこまで来たら、ふと

なぜ私はここまでかたくなにマラソンを憎むひつようがあるんだ?
という気がしてきた。

私こそ、マラソンの何を知ってるって言うの!?

そう思い始めたら、心がパーッと軽くなって、
憎む気持ちが薄れて(大げさでごめんなさい)、なんだか可笑しくなってきた。
長年嫌いだと思っていた事に対して、やるかやらないかは別として、
「嫌い」という気持ちがなくなった事が妙に嬉しかった。



次の日の朝、起きてみると天気が良くて、
なんだか散歩に出かけたくてしょうがなくなり、家を出た。

すると、見慣れたはずの近所の空が、畑が、海が、なんときれいなこと。
こんなに気持ちがいいんだ。
笑いさえこみ上げてきた。



それ以来、私の散歩は続いている。
コースや時間もその日にあわせて適当に。

とっても些細な出来事だけど、私にとっては大きな変化。
気持ちを切り替えるきっかけを与えてくれた友人に感謝だ。

この経験以来、今までイヤだ苦手だと思ってきた物たちを、
実はそんなことないんじゃないか?と改めて思ってみるようになった。
分かっちゃいてもなかなか持てなかった前向きな気持ちが、
自然と出てくるようになった。

それが、最近の嬉しいこと。