私は船旅が好きだ。
船旅には時間があり、物語がある。

フィリピンの離島を、チリのフィヨルドを、オーストラリアのグレートバリアリーフを、
東北から北海道を、船のお世話になって旅した。

乗り物に弱いくせに船旅をしようとする私。
そこにある魅力は、距離を肌で感じて移動できる喜びだったり、
一人でぼんやりする時間だったり、船上で出会う人だったり色々だ。

そよ風の青空、オレンジと水色が溶け合う夕暮れ、見渡す限りの星空。
無心になれる空気に包まれた船旅が好きだ。



そんな私が沖縄にたどり着いたのも船だ。

気ままなバイク一人旅。
当時暮らしていた平塚(神奈川)から有明まで走り、船に乗りこんだ。

沖縄から西日本を走って帰ろうという計画。
細かい予定はたてず、友達も恋人も誰もいない南を目指しての旅立ち。

夕暮れの中、だんだん小さくなっていくお台場の観覧車の光を、
甲板に立って一人、なんとなくセンチメンタルな気持ちでぼんやり眺めていたこと…
8年たった今でも鮮明に覚えている。


乗り換え待ちの那覇では、船内で知り合った引越しのカップルを手伝って
寝床と食事にありつき、翌日、有村産業のクルーズ飛龍21に乗って宮古島へ。

夜の八時頃出向して、明け方4時ごろに着く便だ。

その晩は、月明かりの下で小さな宴会をした。
東京から一緒で再び同席した男の子たちや、最南端を目指すライダーに
一人旅の女の子、身軽な人たちが集まった。

結局バイク旅行を中止してしまった私がいまだに宮古島にいるのも、
実はこの船の上での出会いが発端で広がった縁でもあるのだ。

出会いは本当に不思議。



そんな縁を提供してくれた飛龍21が、今月5日をもって運行を休止。
再開のメドは立っていないという。



飛龍、飛龍21は名古屋―大阪―那覇―宮古―石垣―台湾を結ぶ、
離島住民や旅行者にとって、重要な移動手段だった。

一言で言うと原油価格高騰による燃料費の上昇が大きな打撃となり、
燃料費や従業員の給与を確保するのが困難になったということで、
運行休止は非常に残念でならない。



実はこの4月、久々の飛龍21に乗った。

普段那覇に行くときは日程が先にわかっているため、事前に安売り航空券を
買うことが多いのだが、なぜか帰りの便だけ購入を忘れて予約が消えてしまい、
気づいたときには値段が上がっていたので船に乗ることにしたのだ。

その時の運賃が、燃料費2000円を足して7000円。
飛行機の安売りより高かった。

正直言って残念でしょうがない気持ちで乗船券を購入した私。
しかしいざ港に着いてみると、旅気分でワクワクしたのだった。


やっぱり船旅はいい。

下のベッドのおばあに「飴玉おくれ」といわれ、
かわりにお土産にもらったおしゃれなチョコレートを渡したら
「これをもらおうね」と全部食べられてしまったり・・・

向かいのベッドのまったく英語が通じないカナダ人(フランス語圏)が
日本語堪能でびっくりしたり・・

そのカナダ人に
下のおばあがもろに方言で話しかけているのがカーテン越しに聞こえてきたり・・・

相変わらず面白い時間を過ごした。


特に気に入った物。

台湾行きだけに、漢字で書いてある。
そっか、サンセットテラスは黄昏陽台か…なんとなくロマンチック。


そんな船旅は、寝て起きたら宮古島。
今思えば、4月にチケットを買い忘れて良かった。







またいつか、飛龍が航海する時がくることを願って。