祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり
  沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理を現す

 有名な平家物語の冒頭の一節に出てくる「沙羅双樹」とは、椿の一種だ。(正確には、夏椿で、京都のどこかのお寺で今でも花を咲かせるらしい。)
さらに遡ると、日本書紀や万葉集でもすでに椿のことが詠まれていて、かなり古くから親しまれていたことがわかる。
 戦国時代には品種改良が進み、豊臣秀吉は居城である伏見城の庭に、全国の珍しい椿を集めて植えさせていたらしい。

 一方で、今日でも「TSUBAKI」という名のシャンプーが人気を集めているあたりから見ても、日本人は昔も今も椿という植物に強い関心を持っている。つまり、日本を代表する植物の一つといっても過言ではない。



 一月下旬の宮古島では、ヤブツバキの花が、庭先や公園などに、よく見られる。照葉樹で強い日差しに耐えられるような葉をしていることから、元々、温かい所に適した植物なのかもしれない。

 たくさんの形や色がある中でも、ぼくは一番オーソドックスな、深紅のヤブツバキが好きだ。小ぶりで、芯を守るような鐘状の花びらのものだ。違う角度から見ると、シドニーのオペラハウスのように見えるものもある。厚手の葉の深みのある濃い緑と、一口では表現できない渋い赤色のコントラストが何とも情緒的で趣がある。ずっと見ていると、心を掻き乱されるような気さえする。

 椿の花はなんと言っても散り際に、特徴がある。

 それゆえ、武士に好まれ書院や床の間に飾られたり、茶室に生ける花として、日本文化の礎を担ってきた。「武士道」や「わびさび」というものは、日本人の美意識をのみならず、自然観、死生観を現していた。

 「盛者必衰の理を現す」

 これは真理である、とぼくは思う。
 たまには、椿を眺めながら、生きることや死ぬことにと向き合うのも大切なことではないだろうか。